2014年11月12日水曜日

回想録6

 本格的な暖かさを覚え新緑の色増す5月、地球温暖化の影響なのだろうか、昨今では気温が30度を超す日も珍しくは無い。そんな時期に富士山の麓を流れる桂川で釣りをしていると、暑さと視界に入る富士の残り雪とのコントラストになにか不可思議さを感じずには居られない。とはいえ、そんな自然の変調に、川に棲む魚と釣り人は成るだけ順応しなければいけない。その様は慌ただしさも相まって意外な結果をもたらす事もある。

2008年5月山梨本流

朝靄のなか、川に着くと前日のまとまった雨で程よく増水していた。しかも昨日は暑いくらいに気温が上がり暖かい雨となったこともあり、さぞかし魚の活性が上がったものと想像できた。早速竿を伸ばして目の前の流れ込みを探ってみると、ここぞというスジで尺前後の魚がテンポ良く釣れた。しかも、どの魚もアタリは明確で前のめりな位置で喰ってきた。楽しい釣りができそうだ。

日差しが私の肌をジリジリと焦すのを感じ、今日も気温が上がりそうな予感を感じた。ともあれ、あいかわらず軽快な釣りを続けていたのだが、とある落ち込みのポイントに差し掛かった時に今までのようなアタリがなくなった。少し大きい魚が居るのかなと思い、粘ってみることにして竿を振り直す。すっかり見上げる位置にまで昇った太陽が水面を照らし、反射光に目印を見失いそうになる苛立ちを感じながら流していると不意にアタリがでた。はっきりとしたアタリだったこともあり反射的に合わせたが、掛からず仕掛けは空を舞う。何かが居るということは分った。しかし、その何かは同じ方法では二度と反応しかなった。どうやらそんなに甘くはない相手のようだ。

そこで、少し機転を利かして、盛期に流すような攻め方で、落ち込み直下から重めのオモリを生かし一気に沈め、落ち込み方向から先ほどのタナを探ってみた。大きめの底石がいくつかあるのか、着き場を探るために幾度となく竿を振る必要があったが、良い感じに流れたとき派手なアタリがでた。予想していたよりも少し上流でアタリが出たこともあって若干合わせが遅れたが、しっかり喰っているようなアタリだった事もあり目一杯合わせる。

気持ち良いくらい竿が曲がり、その反発の重みが大物だということを物語っていた。水面下深くでは魚が激しくローリングを繰り返し、目印がぐいぐい引き込まれていく。このまま潜られて落ち込みの白泡方向に潜られると面倒だから少し後ろに下がり、魚が暴れてることに構わず竿を絞り込んでいく。それからは根競べだった。時期的に早かった事もありパワーが十分とはいえない竿や糸だったので正直獲れるか五分五分。要は勝負を急がないことだろう。

幸いにも潜られる事もなく、次第に浮いてきた魚はこの時期にしては大きすぎるほどのサイズ。意外な釣りに私は嬉しくなり、魚を寄せながら光よりも早く近づき稲妻の如くタモで掬った。見ると均整のとれた体躯の大ヤマメで、この時期にしては出来すぎた釣りに満足した。