2014年11月10日月曜日

回想録2


2003年7月奥多摩湖ノボリアマゴ
 
谷の深い渓谷で、まだ明るくはない朝に大物を掛けた。その魚は掛けるやいなや前日の雨で増水したガンガンの流れを味方に下っていく。私も負けずと岩場を這いながら着いて行くが、下流に向けられた竿は次第に伸されていく。「くぅ・・」と私が唸った次の瞬間に0.8号の糸は空を舞っていた。
 
正直、嘗めていたのかもしれない。本流などの広い釣り場とは違い、険しいV字渓谷を成しているこの川では魚に対して主導権はおろか一瞬の迷いが勝負を決するのだという事を知らされた。
 
気を取り直し、ポイントを変える。しかし、ぶっつけからの深い流れ込みを攻めるが一向にアタリはでない。
 
「まさかガンガンの流れ込み?」
 
その流れ込みは増水のため怒涛の流れになっていて、6Bのオモリを付けて流すが一瞬で流されてしまうような流れだ。まさかこんな居づらい場所に居るのだろうかと思いもしたが、自分の閃きを信じオモリ6Bを二つ追加して流す。当然、重すぎるオモリは操作を間違えると根掛かりをおこす。何度か根掛かりを起こしながら底石と折り合いをつける工夫をして流すと何かが水面下でギラギラっと光った。アタリだという確信を得る前に私は思いっきり合わせていた。竿先が上下に踊っているのに呼応するように水面下では激しく魚が暴れているのを見て私は確信を持つ。

怒涛の流れを下っていく魚に一瞬圧倒される。しかし、先ほどの失敗を思い起こし、行かせまいと一気に竿を絞りあげる。糸の悲鳴ともとれる唸りをあげたように感じたが、魚も流れ出し手前に悲鳴をあげる様にローリングしていた。そこからは根競べが続いたが、次第に魚は観念したかの様におとなしくなる。安心した私は、手前のヨレに寄せるために竿を下竿にしていた。しかしこれが失敗だった。事前のシュミレーションでは崖が背面2mくらいまで迫っていて、竿を返す余裕はないとわかっていたのにも関わらず不意に下竿にしていた。完全な悪手である。中途半端な下竿は溜めの緩みを生み、それを見逃さなかった魚はあざ笑うかの様に下流のガンガンの流れに向かって下っていく。今更、上竿に返す余裕などなく、下竿のまま耐えながら流れ出しの深みをへつりながら付いていく。
 
ここからはやり取りのテクニック云々ではない。諦めない気持ちだけが重要だった。ゼイゼイと息が切れそうになりながら、半分は流されていたのかもしれない。「無理だ・・」と思った矢先に魚は岩の裏で横たわっていた。タモで掬うまでは信じられなかったが、まるで待っていてくれたの如くおとなしく私のタモの中へ吸い込まれていった、、、、。
 

雄のノボリアマゴ